制作事例_vol.5 |渡邉 朋也さん

1984年生まれ。
コンピューターやインターネットといったメディアテクノロジーをベースに、インスタレーション、映像作品、ダジャレ、エッセイなどを制作する。並行して山口情報芸術センター[YCAM]にドキュメント・コーディネーター/アーキビストとして勤務。
個展に、「信頼と実績」(2017年/京都)「科学と学習」(2016年/東京)、グループ展に「見えないものとの対話」(2015年/福岡)、「マテリアライジングⅢ」(2015年/京都)、「Affekte」(2014年/ドイツ・エアランゲン)、「光るグラフィック展」(2014年/東京)など。著書に「SEIKO MIKAMI—三上晴子 記憶と記録」(2019年/NTT出版/馬定延との共編著)

何の機材で、何を制作されていますか?

3Dプリンターを使って、自身がアーティスト活動で制作している作品の一部を出力しました。

誰でも使う割り箸を使った彫刻作品です。
割り箸は、一つのものを二つに割ることでそれぞれの形が決まります。割り箸の片方がなくなってしまうというシチュエーションに出くわすことがあるのですが、無くなった片方の割り箸を3Dプリンターで復元し、残った片方とセットで作品として展示していました。

ファブラボを知った経緯を教えてください。

ファブラボやまぐちがオープンした頃に、ファブラボやまぐちのスタッフで、私の勤務先でもある山口情報芸術センター[YCAM](以下YCAM)でサポートスタッフ(一種のアルバイト)をしてくれていた田吹さんという方に教えていただきました。

ファブラボを利用していかがですか?

当時はまだ3Dプリンターが高価だったので、自宅の近くにファブラボやまぐちのような、一定の条件下で比較的自由に利用できる施設ができたのは好都合でした。


美術作品の制作にはトライアンドエラーが必要不可欠です。
それを自由にやるとなると、どうしても他の利用者の方がいらしたり、営業時間などで難しいなと感じる部分もありましたが、自分としてはメリットの方が勝っていたと思います。

ファブラボやまぐちのスタッフがYCAMでも一緒に働いていたということもあったので、お邪魔はしているけど、気軽な感じで使わせてもらったという印象です。

渡邉さんのものづくりに対する理念や信念・思いとは何ですか?

この時代における生活の流れから切り離されたような表現はしたくないですね。

身近な素材や技術であったり、ふと気付く小さな発見とか、そういうことを大切にしていきたいです。
今はコンピューターが身近な道具として、定着しつつあり、それによって人々のリアリティやコミュニケーションも少しずつ変化しつつあります。そんなあたりまえの存在にこそ、今まで見過ごしていた不思議なことや変わったものが潜んでいると思で、それらをうまく抽出し、テクノロジーを使って作品という形で固定化する。その取り組みを通じて、身近な存在から新しい作品が生み出せたらいいなと思っています。

今後ファブラボに期待すること、要望などはありますか?

まずは人が集まる場所、クリエイティブなことに関心がある人達が居付ける場所になるといいなと思います。

街には人と人とが交流するためのハブが必要なんです。
だからファブラボはYCAMとはまた違った形の交流拠点になるといいのかなと思いますね。ただ、それはお金にならない話だと思います。でもファブラボに対する河口さん(ファブラボやまぐちの代表)の関心は、むしろそのあたりにあると思うので、ぜひ頑張って欲しいというのはあります。だから私はファブラボやまぐちの皆さんを応援していますし、本当に頑張って欲しいです。

県外の人に、山口がどんな街なのかを発信する時や、クリエイティブなコミュニティを紹介する時は、ファブラボやまぐちに連れて行けば1発で伝わる、それが理想ですね。
賑わってる必要性はないと思ってます。どの街にも多様な人が何か集まる場所があるのですが、ファブラボやまぐち自体がそういう場所になっていったら熱いなって感じがしますね。

いつも多くの人で賑わうYCAMも、この日は休館日。
普段はYCAMのお仕事で繋がりのある渡邉さんですが、直接お会いする機会は少なかったので、少し緊張しながら取材開始。

美術大学出身の渡邉さん。コロナ禍の終息を契機に、集団で作りだすアートプロジェクトへと関心が移りつつあるそうです。今後もその活動は継続していく一方、以前から行なっていた彫刻や平面の表現という個人の創作活動も再開したいと話されていました。

インタビューに際し渡邉さんのSNSを拝見したところ、目にとまったのが元プロ野球選手の「落合博満さん」の話題。
その存在が渡邉さんの作品にどう影響しているのか興味津々。実際に尋ねてみると、落合さんの着眼点の凄さについて予想以上に熱く、深く語ってくださいました。コアな野球ファンが同席していたらさらに白熱したことでしょう。

また渡邉さんは、IDPW(アイパス)と言うインターネット上の秘密結社に所属されていたり、本当にたくさんの顔をお持ちです。豊富な知識とバイタリティあふれるトーク、とても素敵な方でした。
新作完成の際は、ぜひ拝見させてください。

渡邉さん、ありがとうございました。

渡邉 朋也
Webサイト:https://www.watanabetomoya.com